2026年9月

杉並区で創業融資を受けるなら、区の制度融資と日本政策金融公庫のどちらから当たるか

この記事の要点

  • 金利で選ぶなら区(本人負担 年0.20%、優遇で0%)。金額と時間で選ぶなら公庫(限度額7,200万円、決定まで平均2〜3週間)
  • 公庫を先に借りても、区の申込みに必要な自己資金は増えない
  • 「特定創業支援等事業」の証明書は区・公庫・都の全部に効く。ただし取得に1か月以上かかる

杉並区で創業される方から、区の融資と日本政策金融公庫のどちらに行けばよいか、という相談をよくいただきます。

答えは制度の数字を並べれば出ます。

この記事では、杉並区・日本政策金融公庫・東京都・東京信用保証協会の公式資料を直接確認したうえで、金額・利率・期間・自己資金の要件を比べます。

数値にはすべて確認日を付けています。

制度は年度で改定されます。実際に動く際は、窓口で最新の条件をご確認ください。

金利で選ぶなら区、金額と時間で選ぶなら公庫

金利負担だけを見れば、杉並区の創業支援資金が有利です。

表面利率は年1.80%ですが、うち年1.60%を区が利子補給します。借りる側の負担は年0.20%です(2026年4月1日現在)。

日本政策金融公庫の創業融資は、無担保で税務申告2期未満の方の特別利率Aが年3.15〜4.85%です。創業支援貸付利率特例制度の年0.65%引下げを加えても年2.50〜4.20%です(2026年8月3日現在)。

同じ金額を同じ期間借りれば、利息は一桁違います。

ただ、全員が区に行けばよいわけではありません。

区の創業支援資金は限度額2,000万円です。創業前に申し込む場合は「融資申込み金額以上の自己資金額」が要件になります。

公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は限度額7,200万円で、公式ページの融資条件に自己資金の要件はありません。

設備資金の返済期間も、公庫は20年以内(据置5年以内)、区は9年以内です。想定している資金の性格が違います。

借入額が大きい方や手元資金が薄い方は、公庫が現実的な選択肢になります。

杉並区 創業支援資金
日本政策金融公庫
限度額
2,000万円
7,200万円
本人負担利率
年0.20%(優遇で0%)
年2.50〜4.20%
自己資金
申込額以上(創業前)
要件なし
設備資金の返済期間
9年以内
20年以内
決定までの時間
窓口→面談→審査
平均2〜3週間
金利で選ぶなら区金額と時間で選ぶなら公庫
2つの制度の要点。数字は本文と同じ確認日のものです。

杉並区創業支援資金の中身(2026年4月1日現在)

限度額2,000万円、本人負担は年0.20%。優遇に当たれば0%です。

貸付期間は運転資金7年以内、設備資金9年以内、運転設備併用7年以内です(据置1年以内を含む)。

利率は表面が年1.80%、本人負担が年0.20%、区の利子補給が年1.60%という内訳です。

次の4つの優遇のいずれかに該当すると年0.2%が上乗せで優遇され、本人負担は年0.0%になります。

  • 産業経済団体加入者優遇
  • 住環境と調和した業種優遇
  • 人材雇用等創出優遇
  • 環境負荷軽減促進優遇

対象は3つに分かれます。

  1. 1.創業前:事業を営んでいない方が個人として杉並区内で創業を予定し、融資申込み金額以上の自己資金があり、1か月以内に開業すること
  2. 2.創業後:事業を営んでいない方が個人または法人として杉並区内で創業し、創業した日から1年未満であること
  3. 3.区内での分社化

対象外も明示されています。事業収入や不動産収入がある方、現在法人の代表者である方、事業を1年以上営んでいる方が事業所を新設または法人成りする場合です。

杉並区外で創業してから区内に移転した方も、創業1年未満であっても対象になりません。

区外で開業届を出してから杉並に移る順番は、この制度では不利です。

保証料は一度払って、後から戻ります

保証料は実質全額補助ですが、いったん払ってから戻ります。

リーフレットには、信用保証料を東京都が3分の2、区が3分の1補助し、実質全額補助になると書かれています。

対象は、創業支援資金を利用し、かつ特定創業支援等事業の支援を受けた方です。

押さえておきたいのは、補助が即時の値引きではない点です。

区の案内には、信用保証料は一旦信用保証協会に支払い、支払い後に区から申請書兼請求書が郵送される、と明記されています。

その際に支払う保証料は、東京都の補助分をすでに差し引いた金額です。

融資実行時には区の補助分にあたる自己負担が出て、後日申請して戻る形です。

創業直後の資金繰り表には、この時間差を入れておく必要があります。

自己資金の要件は申込額以上。しかも借入金は全額引きます

創業前の申込みは、申込額以上の自己資金が要ります。借入金は全額差し引きます。

創業前(要件1)で申し込む場合、自己資金の計算方法までリーフレットに書かれています。

自己資金額は、事業に充てるために用意した資産の合計から借入金を差し引いて算出します。

自己資金の算式と確認書類(リーフレットの記載)

資産側に入るもの

  • 残高の確認できる預貯金
  • 評価率を乗じた有価証券
  • 敷金・入居保証金
  • 資本金・出資金に充てる資金
  • 融資申込み前に導入した事業設備(不動産を除く)
  • その他客観的に評価可能な資産(不動産を除く)

差し引く借入金

  • 残存返済期間が2年以上ある住宅ローンや設備資金など、長期返済を前提とする借入金の年間返済予定額の2年分
  • その他の借入金の全額

確認書類も指定されています。預貯金は残高の推移が分かる通帳または証書、敷金・入居保証金は賃貸借契約書と預り証、資本金・出資金は払込金保管証明書等、導入済み設備は領収書、借入金は返済予定表または借入の始期・終期が分かるものです。

提出書類は、融資実行の有無にかかわらず返却されません。

この算出方法は、リーフレットで「要件1【創業前】の方のみ」と明記されています。

日本政策金融公庫の創業融資(利率は2026年8月3日現在)

限度額7,200万円、自己資金の要件なし。利率は年2.50〜4.20%です(特別利率Aに特例を適用)。

「新規開業・スタートアップ支援資金」の対象は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方です。

融資限度額は7,200万円です。

返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内です(いずれも据置5年以内)。

利率の区分と、特別利率が付く条件

利率は原則として基準利率です。女性の方、35歳未満または55歳以上の方、認定特定創業支援等事業の支援を受けて市区町村の証明書を取得した方などは特別利率Aになります。

証明書に加えて、女性・35歳未満・55歳以上のいずれかにも該当する場合は、さらに低い特別利率Bです。

水準は次のとおりです(無担保で税務申告2期未満の方)。

  • 基準利率 年3.55〜5.25%
  • 特別利率A 年3.15〜4.85%
  • 特別利率B 年2.90〜4.60%

これに加えて、新たに事業を始める方または事業開始後税務申告2期未満の方は、創業支援貸付利率特例制度により年0.65%引き下げられます(雇用の拡大を図る場合は年0.9%)。

担保・保証人は、創業支援のQ&Aで、創業期の方は原則として無担保・無保証人で利用できるとされています。

自己資金は制度要件としての定めがありません。Q&Aで「新規開業実態調査によると、創業資金総額に占める自己資金の割合は平均で2割程度」と紹介されているだけです。

500万円・5年で並べる

500万円を5年借りると、利息の差はおよそ30万〜50万円です。

借入500万円・5年・元金均等・無担保のときの利息(概算)

杉並区 創業支援資金(本人負担 年0.20%)約2.5万円
日本政策金融公庫(年2.50〜4.20%)約32万〜53万円

区は信用保証料(約4.8万円)が別途かかりますが、特定創業支援等事業を受けていれば実質全額補助です。公庫に保証料はありません。斜線は利率の幅による差です。

試算の前提と内訳

条件をそろえます。借入500万円、期間5年、元金均等60回、据置なし、無担保です。

平均残高は約254万円になります。

杉並区の創業支援資金は本人負担利率0.20%なので、利息は概算で約2.5万円です。

信用保証料は、創業関連保証の料率(500万円以下は年0.35%)と分割係数0.55で試算すると約4.8万円です。合計で約7.3万円になります。

特定創業支援等事業を受けていれば保証料は実質全額補助なので、実質負担は利息の約2.5万円に近づきます。前述の優遇に該当すれば利率は0.0%です。

日本政策金融公庫は信用保証料がかかりません。代わりに利率が年2.50〜4.20%です(特別利率Aに創業支援貸付利率特例を適用した場合)。

同じ前提で利息は約32万円〜約53万円です。差は30万〜50万円ほどになります。

公庫の利率は、資金の使いみち・返済期間・担保の有無で幅の中のどこになるかが決まります。区の表面利率1.80%も、長期プライムレートの変動で変わる場合があると明記されています。目安としてご覧ください。

速さの差はどこで生まれるか

公庫は平均2〜3週間。区は窓口→面談→審査と工程が多く、急ぐなら公庫です。

日本政策金融公庫は、申込みから融資決定までの平均所要日数を2〜3週間程度と公表しています(土日、祝日を含む)。

申込みはインターネットで24時間受け付けており、創業計画書や本人確認書類は電子データで提出します。

窓口は、法人は本店所在地、個人は創業予定地の最寄支店です。杉並区は新宿支店が案内されています。

杉並区のあっせん制度は、区が申込書類を受領してから取扱金融機関へあっせん状を発送するまでが「原則、申込書類を受領した日の翌営業日」です。ここは速いです。

ただし、そこに至るまでに工程があります。

  1. 1.産業振興センター窓口で相談(予約不要)。要件確認と必要書類の説明を受ける
  2. 2.書類を揃えて、面談を電話で予約する
  3. 3.面談(1時間程度)。相談員の中小企業診断士が事業計画の作成を支援する。作成状況によっては複数回になる
  4. 4.金融機関の審査。必要に応じて信用保証協会の審査
  1. 1産業振興センター窓口で相談(予約不要)
  2. 2書類を揃えて面談を電話予約
  3. 3面談(1時間程度、複数回になることも)中小企業診断士が事業計画づくりを支援
  4. 4区があっせん状を金融機関へ発送原則、申込書類を受領した日の翌営業日
  5. 5金融機関・信用保証協会の審査
  6. 6融資実行
杉並区のあっせん制度の流れ。速いのは4だけで、そこまでに1〜3があります。

「来月開業なので今月中に資金を」という状況では、公庫のほうが間に合う可能性が高いと考えています。

併用するなら順番。公庫を先に借りても、区の自己資金は増えません

公庫を先に借りても、区の申込みに必要な自己資金は増えません。

両制度の併用を禁じる記載は、どちらの公式サイトにもありません。

ただし順番に注意点があります。

S4のとおり、区の創業支援資金の自己資金額は、その他の借入金を全額差し引きます。

公庫から借りた資金が預金口座にあれば、資産側で預貯金として足される一方、借入金として同額が引かれます。

公庫を先に借りても、区の申込みで求められる自己資金額は増えません。

「公庫でまず資金を作り、それを自己資金として区に申し込む」という組み立ては、この算式では成り立ちません。

公庫から先に借りた場合の、区の自己資金額の計算

資産側

預貯金が増える

+500万円

差し引く借入金

その他の借入金は全額

−500万円

自己資金額

変わらない

±0円

「公庫で資金を作って、それを自己資金として区に申し込む」は成り立ちません。

逆に、区の制度を先に検討する場合、創業前(要件1)の申込みは「融資申込み金額以上の自己資金」が要ります。申込可能額は手元資金に縛られます。

これは区の要件の話です。金融機関と信用保証協会の審査は別に行われ、既往借入の有無や総借入額は返済能力の観点で見られます。可否をここで断定することはできません。

実際の組み立ては、産業振興センターの相談員と取扱金融機関の双方に既往借入を開示したうえで相談してください。

創業1年を過ぎたら、東京都の創業融資があります

創業1年を過ぎたら、東京都の創業融資(創業5年未満・限度額3,500万円)が選択肢です。

杉並区の創業支援資金は、創業後は「創業した日から1年未満」が対象です。

1年を過ぎると、区の制度では「新事業展開資金」になります。

区内に1年以上主たる事業所と事業実態があり、区内で同一の事業を1年以上営んでいることが要件です。限度額1,500万円、本人負担利率は年0.67%です(2026年4月1日現在)。

限度額も利率も、創業支援資金より不利になります。

もう一つの選択肢が、東京都中小企業制度融資の「創業」です。

出典

東京都創業融資の条件(2026年度要項)

2026年度の要項では、融資限度額3,500万円、運転資金7年以内・設備資金10年以内(据置1年以内を含む)、創業後は「創業した日から5年未満」まで対象です。

信用保証料は東京都が3分の2を補助します(分割納付する場合は補助対象外)。

融資利率は利率区分②です。責任共有制度の対象外となる保証であれば、固定金利で年2.15%以内(3年以内)から年2.65%以内(7年超10年以内)です。

認定特定創業支援等事業により区市町村長の証明を受けている場合などは、「創業支援特例」として年0.4%優遇されます。

区の創業支援資金の期間を過ぎた方には、都の創業融資が現実的な選択肢だと考えています。

特定創業支援等事業は区・公庫・都の全部に効きます。ただし1か月以上かかります

証明書1枚で、区の保証料補助・公庫の特別利率・都の利率優遇・登録免許税の軽減が付きます。

ここまで何度も出てきた「特定創業支援等事業」は、杉並区で創業する方にとって費用対効果が最も高い準備だと考えています。

杉並区の証明書を取ると、次の4つが効きます。

  • 区の創業支援資金:信用保証料が実質全額補助
  • 日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金:特別利率A
  • 東京都の創業融資:年0.4%の利率優遇(創業支援特例)
  • 株式会社・合同会社の設立時の登録免許税:税率0.7%から0.35%に軽減

区、公庫、都のどこに行っても効きます。

ただし、証明書の交付には時間がかかります。

杉並区の要件は、特定創業支援等事業を4回以上、原則1か月以上の継続的な期間にわたって受け、経営・財務・人材育成・販路開拓の知識をすべて習得することです。

対象は、事業を営んでいない個人が6か月以内に事業を開始する具体的な計画を持つ場合、または事業開始後5年未満の場合です。

現在法人の代表者である方が新たに法人を設立する場合や、すでにフリーランスとして事業を営んでいる方が法人化する場合は交付対象外です。

区の実施事業には、中小企業診断士による無料の創業・経営相談(月〜金)、創業セミナー、すぎなみ創業塾、すぎなみ創業スクールなどがあります。

開業予定日から逆算して、少なくとも1〜2か月前には動き始める必要があります。

杉並区での段取りと持ち物

まず産業振興センターへ。特定創業支援等事業の受講は同時に始めます。

段取り6ステップと持ち物
  1. 1.杉並区産業振興センター就労・経営支援係へ行く(杉並区上荻1-2-1 Daiwa荻窪タワー2階、電話03-5347-9182、月〜金8時30分〜17時、祝日・年末年始を除く)。初回相談は予約不要
  2. 2.並行して、特定創業支援等事業の受講回数を積み始める。4回以上かつ1か月以上という要件は、後から巻き返せない
  3. 3.融資を希望する取扱金融機関に、区の制度で申し込む予定であることを伝え、担保と保証の内容を確認する(面談日までに済ませる)
  4. 4.自己資金の確認書類を揃える。通帳、賃貸借契約書と預り証、資本金の払込証明、導入済み設備の領収書、既往借入の返済予定表。法人は発行後3か月以内の印鑑証明書・履歴事項全部証明書も
  5. 5.書類が整ったら、電話で面談を予約する
  6. 6.申込後、区は原則翌営業日に取扱金融機関へあっせん状を発送。以降は金融機関と東京信用保証協会(新宿支店、電話03-3344-2251)の審査

あわせて検討したいのが、杉並区の創業スタートアップ助成事業です。

事業所家賃助成(助成率3分の2、月額上限5万円×6か月で30万円)とホームページ等作成助成(助成率3分の2、20万円)のどちらか一方を申請できます。基準日において創業後6か月以内であることなどが要件です。

2026年度の第2回申込期間は10月1日から11月30日までで、予算に達した場合は途中で受付が終了します。

所管は融資と同じ産業振興センターです。最初の相談のときに一緒に確認しておくと手間が省けます。

助成の中身は別の記事にまとめています。

審査の可否や個別の税務上の取扱いについて、本記事では判断を示していません。具体的な組み立ては、顧問税理士にご確認ください。

出典

本コラムは一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務判断は、事業の状況や適用時期により 結論が変わることがあります。実際の処理にあたっては顧問税理士にご確認ください。

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